労働基準監督署の調査 「臨検監督」って何?
「労働基準監督署の調査!」 というと、緊張するものです。
しかし、一口に労働基準監督署の調査と言っても「労働基準監督署の、どの部署の管轄か」ということで、その内容は全く異なります。
そこで今回は、「労働基準監督署の調査」に慌てないで済むよう、
- 労働基準監督署の組織
- その組織ごとの業務内容概要
- さまざまな権限を持つ、労働基準監督官
- 税務調査の労働基準監督署版である「臨検監督」
について説明します。
労働基準監督署の組織と業務
日本における労働基準行政のトップ機関は厚生労働省です。
その下部組織として全国47都道府県に都道府県労働局があり、さらにその下の組織として全国に321の労働基準監督署と4つの支署があります。
労働基準監督署の内部には、地方ごとに若干の名称の違いがあるようですが、おおむね以下の組織が置かれています。
労働基準監督署の組織と業務
① 監督課(方面)
主に労働基準監督官が配属されている部署で、一般的なイメージの労働基準監督署による調査(正式には監督という)を行います。
調査の種類には、実際に監督官が現場に赴き調査をする「臨検監督」、代表者や人事担当者に監督署に来てもらい、聞き取りなどの調査を行う「呼出監督」などがあります。
② 安全衛生課
労働災害が起こった場合の調査や、労働災害が起こらないようにするための事前の調査を行います。
具体的には、製造業や建設業における設備の状況などに関する調査や、労働者の健康を確保するための指導(メンタルヘルス指導など)を行います。
③ 労災課
労働災害保険申請時の書類審査や、必要に応じて実地調査を行い、労災保険の支給決定を行います。
また、労働保険料徴収に関する業務もここが担当しています。
④ 業務課(監督課庶務係)
基本的には、監督署内における労務管理や経費の管理などの庶務を行いますが、賃金構造基本統計調査などの統計調査の取りまとめを行う部署でもあります。
これらの各部署の業務内容を踏まえ、「どこの部署で」「何を調査しているのか」を確認をし、慌てずに対処しましょう。
重大事項と心得る!臨検監督
臨検監督とは
臨検監督とは、労働基準監督官が会社(事業場)を訪問し、その会社が労働関係法令を遵守しているかを確認するため、帳簿などの書類を調べたり、会社内部の人に事情聴取をしたりする行為です。
労働基準監督官とは
労働基準監督官とは、厚生労働省の専門職員で、行政職員と特別司法警察官の身分を併せ持つ存在です。 つまり、事業場への立入権限などを活用した会社への監督指導(行政指導)によって、労働基準関係法令違反の是正を促し、労働条件の確保や向上を図る目的がある一方、悪質・重大な違反を行う会社に対しては、逮捕や送検などの強制力をもってその指導実行力を強化しています。 ちなみに、この行政職員と特別司法警察官の両方を併せ持つ労働基準監督官の性格は、ILO(国際労働機関)条約によるものであり国際的なルールでもあります。 |
臨検監督には、労働者からの情報提供(申告)に基づきその会社を訪れる「申告監督」、労基署が計画を組んで調査する会社を選定し訪れる「定期監督」、是正状況を確認するために再び実施する「再監督」があります。
臨検監督によりその会社に労働関係の法令違反が認められる場合には、是正や改善を求める文書(是正勧告書)がその会社に公布されます。
また、労働基準監督官は、臨検監督のため許可なく事業場に立ち入ることが法律で認められているため、会社は事実上臨検監督を拒否することはできません。
臨検監督の対象となる会社の選定
申告監査で、労働基準法などに違反しているとして労働者からの申告があった事項および件数は以下の通りです。
主要事項別被申告事業場数 | 件数 |
賃金不払 | 15,119件 |
その他(労働基準法) | 3,099件 |
解雇 | 2,788件 |
最低賃金法 | 1,258件 |
労働時間など(一般) | 443件 |
(厚生労働省:「令和3年労働基準監督年報」より)
最も多いのは「賃金不払」です。「その他(労働基準法)」を挟んで、「解雇」、「最低賃金法」などが続きます。
一方、臨検監督の8割を占める定期監督は、以下のように選定されます。
- 1年に1度、厚生労働省において当年度の調査方針(労働行政運営指針中央版)が決められ、これを基に各都道府県労働局により各自の調査方針(労働行政運営指針地方版)が決定する
- 各管轄労働基準監督署は、これに基づく年間計画を月別に立て、所属する労働基準監督官に割り当てる
- 労働基準監督官は、割り当てられた計画を具体的に実施する
どこの会社に行くかや日程調整などのスケジュールは、各労働基準監督官の裁量に委ねられます。
以前は、訪問前に電話で訪問することを伝えていましたが、現在は厚生労働省から予告をしないよう指示が出ていますので、事前予告はないと考えたほうが良いでしょう。
前出の年報によれば、令和3年(2021年)に定期監督によって違反が発見された事業場の割合は、68.2%に上ります。違反件数が多いのは、以下のような事項です。
- 安全基準 建築工事現場などにおいて、足場の墜落防止措置が十分に講じられていない、など
- 健康診断 常時使用する労働者に対して、1年以内ごとに1回、定期に健康診断を実施していなかった、など
- 労働時間 時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ていないにもかかわらず、時間外労働を行わせていた、など
- 割増賃金 時間外労働、休日労働、深夜労働を行わせているのに、労働者に割増賃金を支払っていなかった、など
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