配当所得は申告した方が良い?所得税・住民税の課税方式統一で大きく変わる有利不利判定
上場株式などの配当金を巡る3つの課税方式
上場株式などの配当金は支払われる際に所得税などが源泉徴収されています。税率は、20%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税を除く)です。
上場株式などの配当金に掛かる所得税
所得税15%+住民税5%=20% |
※上記のほかに2037年までは復興特別所得税(基準所得税額×2.1%)が賦課されます。
原則、年間を通じて何らかの所得があれば申告が必要となりますが、上場株式などの配当金は源泉徴収されているため、申告不要(源泉分離課税)とすることができます。
しかしながら、場合によっては申告した方が有利になる場合もあり、その際に
- 総合課税…ほかの所得と合算して申告する
- 申告分離課税…ほかの所得とは切り離して申告する
の2つの申告方法から選ぶことができます。
総合課税を選択
総合課税とは、事業所得や給与所得、一時所得、雑所得といった各種所得金額と合算して所得税額を計算するというものです。
上場株式などの配当金について総合課税を選択すると、配当控除が適用できます。
配当控除とは
配当控除は、そもそも配当所得が会社の利益から法人税を差し引いた残りを分配したものであるにも関わらず、そこに所得税などが掛かることで二重課税になっているため設けられている制度です。 課税総所得金額等が1,000万円以下の場合、配当所得の金額×10%が税額から控除されます(課税総所得金額等が1,000万円を超える部分については5%)。 住民税の配当控除は、配当所得の金額×2.8%です。 なお、配当控除の金額は算出税額が限度です。 |
※証券投資信託の収益分配に係る配当所得については控除率が変わります。
申告分離課税を選択
上場株式などの配当金について申告分離課税を選択すると、上場株式などの譲渡損失との損益通算や繰越控除の適用を受けることができます。
上場株式などの譲渡損失との損益通算
株式の売買などで損失が出ている場合、その損失と配当所得を相殺(損益通算)することができます。損益通算することで、源泉徴収されていた配当所得への所得税などが還付されます。 |
繰越控除の適用
上場株式などの譲渡損失はその年で控除しきれなかった場合3年間損失を繰り越すことができます。これにより、今年の損失を翌年の配当所得で損益通算することができます。 |
源泉徴収ありの特定口座内でしたら、上場株式などの譲渡損失と配当所得が確定申告を行わずに損益通算されます。しかし、繰越控除の適用を受けるためには確定申告が必要です。
申告するか、しないか? 選択の基準
上記で見たように、上場株式などの配当所得の課税方法には、以下の3通りがあります。
- 申告不要(源泉分離課税)
- 総合課税
- 申告分離課税
上場株式などの譲渡損失があれば、多くの場合で申告分離課税が有利です。
そのほかの場合にどの方法が有利になるかは、他の所得金額などによって変わります。
所得税は累進課税といって、所得金額が多いほど税率が上がっていきます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
15%の源泉税率よりも、所得税率の方が低ければ、総合課税で申告した方が有利です(ただし合計所得金額が増えることで、配偶者控除の対象から外れることも想定されます)。
総合課税の場合、所得税率から配当控除率(10%)を引いたものが配当所得に掛かる税率です(マイナスにはなりません)。累進税率23%(23%-10%=13%<源泉税率15%)の適用となる課税所得金額900万円未満なら、所得税だけで見ると申告した方が有利です。
この際忘れてはならないのが住民税です。
住民税は申告不要や申告分離課税を選んだ場合は税率5%ですが、総合課税を選択すると10%の一律課税です。総合課税の場合、住民税の配当控除率2.8%を引いた差引税率は、
- 10%-2.8%=7.2%>5%
となり、常に他の申告方法を選んだ場合を超過します。住民税だけを見ると、総合課税の選択は税負担的に不利です。
しかし、実は
- 所得税では総合課税を選択
- 住民税では申告不要(源泉分離課税)を選択
と、所得税と住民税はおのおの異なる選択が可能です。
住民税で申告不要を選択しておけば、所得税の有利不利を気にするだけで良いことになります。
また、住民税を申告不要とすれば、住民税上の合計所得金額にも影響が出ないため、国民健康保険などの保険料や医療機関における窓口負担額が増えることもありません。
朝令暮改的な今年の改正
令和3年度(2021年度)の税制改正では、所得税の確定申告書に記載するだけで、所得税と異なる住民税の課税方式選択が完結できるよう、手続の簡素化がなされました。
ところが、このように制度の普及促進策を実施した直後でありながら、令和4年度(2022年度)の改正では、異なる課税方式が選択できなくなり、所得税と住民税との課税方式を一致させることになりました。この改正は、令和5年度(2023年度)分以後の所得税(令和6年度(2024年度)分以後の個人住民税)について適用されます。
所得税と住民税の課税方式
~2020年 | 2021年~2022年 | 2023年~ |
・所得税と住民税で異なる課税方式を選択できる ・異なる課税方式を選択する場合住民税の手続きが必要 |
・所得税と住民税で異なる課税方式を選択できる ・所得税の申告時に住民税の課税方式も選択可能 |
・所得税と住民税の課税方式を一致させる |
そのため、令和5年(2023年)分の所得税確定申告から、所得税と住民税の両方の税負担合計を計算して、総合課税(配当控除)と申告不要(源泉分離)との選択をすることになります。
源泉徴収(20%)と総合課税を比較すると、
- (23%-10%)+(10%-2.8%)=20.2%>20%
- (20%-10%)+(10%-2.8%)=17.2%<20%
となるので、総合課税を選んだ方が有利になるのは、累進税率20%の適用となる課税所得金額695万円未満の場合です。
上場株式などの配当所得申告方法のまとめ
申告不要となっている配当所得を申告した方が良いかどうかは、一人ひとり状況が異なります。
それぞれの申告方法のメリット・デメリット
上場株式などの配当所得の申告方法 | メリット | デメリット |
申告不要(源泉分離課税) | 手間がかからない | ・所得が一定額より少ない場合申告する場合と比べ納税額が多いことがある |
総合課税 | 配当控除が適用できる | ・所得が一定額より多い場合申告することで納税額が増える ・合計所得金額が増え配偶者控除などの控除が受けられなくなることがある ・国民健康保険などの保険料が増えることがある ・手間が掛かる |
申告分離課税 | 上場株式などの譲渡損失との損益通算や繰越控除の適用を受けることができる | ・合計所得金額が増え配偶者控除などの控除が受けられなくなることがある ・国民健康保険などの保険料が増えることがある ・手間が掛かる |
どの申告方法を選んだ方が有利になるか、きちんと判定をした上で申告をしなければ、手間をかけて申告したのに税・社会保険の負担が増えている、ということにもなりかねません。
納税者にとっては不利ともとれる改正であり、困惑してしまうところですが、誤って納税額が多くならないよう、気を付けたいところです。
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